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ホーム・フリー ホーム・フリー
初出:デジタルくじかタイムにて「不折亭迷蔵」名義で発表
脱稿:2003年5月24日
内容:元トラック運転手だったホームレスの話
 襟元から入り込む冷気で目が覚めた。空はほとんど照明の消えたビルの山影に切り取られ、月明かりでぼんやりと光っていた。街は死んだようにひっそりとしていた。だが俺はもうすでに街が動き始めているのを感じ取っていた。注意深く耳をすますと、ビルの合間を疾走する新聞カブのモーター音や、配送トラックのディーゼル音が間欠的に響いていた。ポケットに突っ込んだ手を中で擦りながら西口のレンガ鋪装の広場に出ると、その中心に立つ時計は午前四時半を指していた。大きく息を吸って吐くと、白い蒸気が上がってすぐに消えた。風は吹いていなかった。だが寒いことに変わりはない。底が擦り減った革靴で足踏みをした。もう十一月なのだ。
 俺が職を失って半年が経った。ホームレス…この言葉は嫌いだが「路上生活者」と呼ばれる方が馬鹿にされているようで胸クソ悪い…とにかく、この駅前広場で寝泊まりするようになってから三ヶ月は経っていた。せめて寒くなる前に抜け出さねば、と思っていたが、今こうして俺は駅舎の横で目を覚ましている。体に巻き付ける幾らかの衣類と、段ボールだけでは寒さが凌げなくなり始めてきた。何とかしなくてはならない。だが、積極的に「寒さ対策」をしたくはなかった。楽な方に流れるのは避けたかった。公園で青いシートを張っている奴等とは同じになりたくなかった。奴等は負け犬だ。俺はこんなところにいつまでもいる気はない。ここからすぐにでも這い出てやる! だが、やはり俺も負け犬だった。寒さだけは何とか凌がなくてはならないだろう…
「お早う」
 ヤスさんが挨拶をしてきた。
「お早うございます。寒いですね」
「ああ。だがもっと寒くなる」
 目線を駅舎に向け、もじゃもじゃの鬚で被われた顔を横にしたままヤスさんは応えた。ヤスさんは俺にとって唯一の「先輩」だった。彼がここに住むようになってから、この冬が三度目になるという。一度は公園でシートを張って暮らしていたらしいと誰からか聞いた。だが、今はこの西口にいる。公園で何があったかは聞かなかったが、彼は「奴等」とは違う臭いがした。とにかく「初心者」の俺にとっては唯一の良きアドバイザーだった。
「毛布はあるのか」
「いえ、まだ」
「俺の余分のがある。分けてやろう」
「ありがとうございます」
 彼はやはり目線を合わせることなく、向こうへと歩き出した。俺は彼の背中についていった。背中には縮れた髪が垂れ、紐や布で縛られた靴は音も立てなかった。背中は彎曲し、ひどく小さかった。かなりのんびりとした足取りで、歩幅を合わせるのに苦労した。
「これだ」
 差し出された毛布は想像通りの物だった。薄暗くて柄は分からなかったが、油が滲みて黒っぽい、変に弾力があるものだった。おそらく建築現場で重機か何かを巻いていたものだろう。糊が効かせてあるように、ひどく固くて薄かった。だが、文句は言えない。誰が文句を言えるというのだ。
「ありがとうございます。助かります」
「…ん」
 彼は微かに頷いた。先ほどから俺は彼の表情を読み取ろうとしたが、ごわごわの毛に覆われた顔からは何も窺い知ることはできなかった。彼は見返りを期待している風でもなく、むしろ無関心な体を装った。いつも彼の親切はぶっきらぼうで素っ気ない。だが彼の一割でも、この慈悲が世の中にあれば…

 俺は大型トラックの夜勤ドライバーだった。自分の仕事に誇りを持っていた。今でも思い出す、繁忙期に永遠とも思える数量の荷物を積み、降ろした時の達成感を。首都高速を上から見下ろす壮大なパノラマを、流れるテールランプを。汗を流した後、朝に飲むビールの爽快感を。そして月末に渡される袋の重みを。何もかも順調だった。あの事故さえなければ…
 もう何百回と通った道だった。肩幅以上もある大きなハンドルを操りながら螺旋状の高架を昇り切ると、環状道の合流地点に差し掛かった。俺は日野の回転を上げてギアを三速に入れた。フロントに「羽」がついた古い日野のシフトはカキンと小気味良かった。一万六千ccの怪物エンジンから作り出されるトルクを、トランスミッションから無駄なくプロペラシャフト、デフに伝達している感じが、手に、足に振動となって伝わってくるのが好きだった。防音壁を過ぎ、本道を走るセダンを横目に見ながら後続車のないことを確認。徐々に加速を始めた。セダンの後ろに全長十二メートルの車体が鮮やかに滑り込む、そのタイミングは完璧だった。だがその時、何を思ったのか横を走っていたセダンが突然減速を始めた。俺は排気ブレーキに手をやった。プシュッと音を立てて日野は減速した。だがセダンはなおも減速した。そのドライバー――今でも覚えている、眼鏡をかけた若い女――こっちを見ている。やめろ! お前はそのまま速度を保てばいいんだ! 無理に道を譲ろうとするな…だが、もう遅かった。
 総重量二十トンの車が与える衝撃は凄まじかった。気づいた時には乗用車が目の前に吹き飛ばされて、紙屑のようにクシャクシャになっていた。バックミラー越しに日野が防音壁にぶち当たりながら蛇行した跡が見えた。
 俺に責任はなかった。いや、ないはずだった。だが「死人に口なし」だった。責任の半分は俺に擦り付けられた。交通事故は死ななかった方が負けなのだ。俺は交通刑務所は免れたが、免許を取り上げられてしまった。自分の金は取られなかったが、金を稼ぐ術を失ったのだ。したがって会社で保証されていた住所、つまり「社宅」を追い出された。家財を売り払い会社から涙金を受け取ると、最低限のものだけを鞄に詰めてそこを出たのだ。
 ここで何も知らない奴は言うだろう。「金があるならすぐにでもアパートを借りればいいだろう」と。だが、俺も知らなかったのだが、保証人がいないと誰も部屋を貸してはくれないのだ。俺は十代に田舎から出てきて、東京に身寄りなんかいない。会社の同僚だって冷たいものだった。
 しかし、もっと酷いのはこれからだったのだ。現住所を持たない男がどんな目に遭うのか想像したことがあるだろうか? もちろん 始めはビジネスホテルやサウナを転々としながら職を探していた。仕事さえ選ばなければすぐにでもなんとかなると思っていたのだ。だが誰が「現住所のない男」を雇うというのだろうか? ただでさえこの不景気な時期に。俺は「選ばない」どころか自分に「選択肢」そのものがなかった事に気がついたのだ。まず携帯電話がなくなり、腕や首に巻いていた金目のものがなくなった。とうとうサウナさえも泊まることができなくなって、そして今、俺はここで寒さに震え、明日の飯にも事欠いている。油まみれの毛布を持って、ここにいるのだ。俺は上司に、会社に…いや社会に捨てられたのだ―――

 だが、俺はまだ諦めてはいない。浮き上がるチャンスは必ずあるはずだ。そのチャンスを掴むまで、とにかくこの「冬」を凌がなくてはならない。だからこの毛布は何より有り難かった。冷えた頬にそれを押し付けてみる。肌触りも毛布というより何か革のようで、また鉱物性と動物性の入り交じった脂の臭いがした。が、実用には問題ない。もうすでに公衆便所脇の寝床に横になっているヤスさんに、もう一度頭を下げた。

 日が昇り始めた。四方から人が現れ始めた。何やらブツブツと恨み言を呟きながら歩く者。空を見上げたまま突っ立っている者。色々だったが皆一様に全身が灰色がかり、黒く汚れた顔をしていた。いわば最終形態と言えるだろうか。「仙人」のような奴ら。だが俺は奴らを「先輩」、いや「仲間」とも思いたくなかった。
 俺は残飯を漁る奴等とは違い「職」があった。ヤスさんが教えてくれたもので、読み終えて捨てられた雑誌や文庫本を集める仕事だ。これは「捨て本屋」に一冊三十円から五十円で売れる。とはいえ紙袋いっぱいにしてやっと五百円。これを朝晩続けても多くて二千円ほどにしかならない。だが飯を野良犬のようにポリバケツから直接喰うよりはよっぽどマシだ。
 駅前から人が出始めてきた。俺も「出勤」の時間だ。紙袋を取り出し入場券を買い、改札に向かう人込みに逆流しながらT線のホームへ登った。
 とにかく、タイミングが重要だった。この頃は「同業者」も増えてきたので、以前よりは沢山集められなくなったのだが、それでも俺には一日の長があった。雑誌の発売日や乗客の傾向を把握し、時刻によってホームや場所を替えるだけで上がりが違うのだ。このターミナル駅の場合、今の時間ならT線の郊外からの客がピークになる。通勤距離があるため車内で雑誌を読み終えているからホームのゴミ箱に捨てられることが多いのだ。これがもう三十分すると今度はY線の階段下の改札脇だ。改札を出てからこの先ゴミ箱がないので、ここで捨てられることが多い。だが、早すぎれば数が入っていないし、遅ければ「同業者」に先を越される。時間によって移動しつつ、これでいつもコンスタントに五百円以上を稼いでいる。
 だが、この日は酷かった。いつもならすでに今日発売の漫画週刊誌で紙袋を一杯にしているはずなのに、今日はほとんどそれがなかった。あとで気づいたのだが、人気連載の一つが先週終わったらしい。この不景気のせいか、たかだか二百円程度のものでさえケチるらしい。そのせいか、この数カ月だけで雑誌が何誌も廃刊になっている。
 だが俺に言わせれば金をケチることは自分の首を絞めることに他ならない。消費が減れば需要も減る。需要が減れば人員が余る。そうなると給料を減らすか、人を減らすかしかなくなる。そうすりゃもっと財布を締めてかからなけりゃならない。螺旋階段でどんどん下へ降りて行くようなものだ。無限のループだ。そんな簡単なこともわからないのか。
 いや、人の捨てたもので自分の食い扶持を繋いでいる俺がそんなエラそうなことを云ったって説得力なんかありゃしない。だいたい俺らの商売が「新品」を売れなくする原因の一つにも…いや、世の中の心配をする前に自分の心配をするべきだ。そう思い直して改札脇に移動した。
 やはり、結果は酷いものだった。紙袋をやっと一つ膨らましたに過ぎなかった。雑誌の程度も悪い。これでは三百円にもなりはしない。こんな日には慣れっこのはずだった。しかし、今日は不安に襲われた。あせくせ働いて三百円。いつまでもこうしていたって、この生活からは抜け出せないのではないか。少しずつでも貯金しようと心掛けても、こんな日があるとすぐにゼロに逆戻り。誘惑に負けて一日の稼ぎがワンカップで消えたことも数えきれない。酒は目の前の不安を取りあえず忘れさせてくれるが、そう長続きはしない。翌朝になって頭を抱えながら、いつも後悔するのだ。そんなことは分かっている。泣き言は云いたくない。だが俺独りに何ができるというのだ。社会に捨てられた俺が。やはり「仙人」達のように俺も朝、恨み言を云いながら立ち尽くし、ポリバケツを漁って生きるしかないのか? いや、今だってゴミ箱を漁っているんだ。何が違う? 結局は街の寄生虫だ。奴等と何の違いがあるんだ…
 いや、今日は考え過ぎだ。悲観するのは後に回せ! 仕事に集中しろ! まだ不安に駆られる頭を振り払い、駅員の目を感じながら改札を出る。そしていつもなら寄り付かない西口公園のはずれにあるゴミ箱へ向かった。俺に今日残された最後の希望だった。
 バスケット型のゴミ箱には、かろうじて清掃員がまだ来ていなかった。区が美観を考えてか、ここには一日何回も清掃員がやってきては、すぐに空にしてしまうのだ。だが、遠目に見たところまだ十冊程度の雑誌を確認できた。急ぎ足で近寄ってゆく。よし、大漁だ! 手を伸ばし、拾おうとした瞬間、
「おい、テメエ邪魔だよ」
 紺のブレザーにズボンをだらしなくはいた金髪の男だった。脇に潰れた革の鞄を抱えてスニーカーを足先に突っかけていた。知恵の足りないところを眉間のシワで誤摩化して、威圧感を出そうとしている。俺は何も云わず、ゴミ箱に手を伸ばした。
「テメエ無視かよ」
 そう聞いた瞬間、俺の視界に急に空が広がった。奴のパンチを喰らったのだ。俺は地面に転がり、たった一人のガキにフクロにされた。俺だって腕っぷしは弱くなかったはずだ。だが適わなかった。栄養が違い過ぎるのだ。奴は俺の腹に馬乗りになってさっきから俺の顔ばかり殴りつけていた。顔を殴るのはバカのやることだ。喧嘩慣れしていないのはその風貌からも窺い知れた。顔のあちこちに穴を開けて金物を通し、ワルっぽくしているが、どうも中途半端にワルに成り切れていない、どこにでもいそうな若造だった。何かをわめきながら奴は狂ったように腕を振り回している。
 数分は経っただろうか、血の味がし始めた。唇が切れたらしい。奴め、こんなに殴ったらテメエの拳が腫れるぞ。馬鹿の一つ覚えのようにさっきから顔を連打しやがる。頭がぐらぐらする。どんどん俺から生気が抜けてきた…
「こら、何やってるんだ!」
 警官だった。ぼんやりとだが、若い警官が警棒を振り回していた。助かった。俺はあの事故以来官憲を憎んでいたが、この時は別だ。とにかく助かった。
「大丈夫か?」
 もう一人の警官が俺を支えた。一人はガキを追っているらしい。
「…ああ」
 俺は口の中に溜まった血を吐き出しながら言った。唇からは血がどんどん滲み出していた。
「病院に連れて行ってやる。立てるか?」
「…いや」
 やがてもう一人の警官が戻って来た。彼の表情は視界が歪んで見えなかったが、どうやら逃がしたらしい。俺は地面に座って口の中の血を吐きながら、遠くなりそうな意識を何とか繋ぎ止めていた。だが俺には袖を唇に当て、止血する冷静さが残っていた。まだ大丈夫そうだ。
「おい、交番まで歩けるか? 救急車を呼ぼうか?」
 俺は空いている方の手を振った。とにかく、殴られるだけでも体力を失っているのだ。無線で何か連絡を取り合っている。
「えー、西口広場にてホームレスが…」
 俺はその言葉を聞いて、急に視界がハッキリとし、同時に官憲に対する怒りをも蘇らせていた。
「…帰ってくれ」
「え?」
「帰れっつうんだ、この野郎!」
 すっかり痛みなど忘れていた。立ち上がることはできなかったが、立ち上がれたらこいつらの胸元を掴みかかっていただろう。
「おい、何言ってるんだ」
「いいから、ほっといてくれ!」
 警官達は当惑気味に、でもやがて中年の方が「ほっとけほっとけ」と言い放って去っていった。最初の若い方だけ「あとで話を聞かせてくれればこちらで…」などと言っていたが、やはり去っていった。何て事はない。若い方は手柄が欲しいだけなのだ。だが、中年の方はどうやら分かっていたようだ。ホームレス(何て胸クソ悪い!)ごときを助けようが、手柄になりはしないのだ。俺が死体で見つかれば別だが。
 体を横たえたまま、体を引き摺って近くの植え込みに寄り掛かる。どうにか血は止まったようだ。口の中が錆びた鉄の味で一杯だった。前歯を揺すってみるとぐらぐらした。殴られただけでもかなりの体力を消耗したようだ。痛みよりも疲れが酷く、とにかく横になりたかった。何も考えたくなかった。
 しばらくそのまま休んだ後、ふらふらになりながら水飲み場で顔を冷やし口を濯ぎ、いつもの寝床へ戻った。ヤスさんのくれた毛布にくるまり、火照った顔を夜の冷気で中和した。吐き気がしていたので食事も摂らず横になった。しばらく空が回っているような感じがしたが、その内すぐに眠気が勝ち、俺は意識を失った。

 翌日になった。昼近くなっても寝床から起き上がれないでいると、目の前に「あの…」という女の声が聴こえた。俺は腫れて重くなった瞼をこじ開けた。それは紫の色眼鏡をかけた中年女の顔だった。
「あの、申し訳ございませんがお話が…よろしいですか?」
 俺は近くの喫茶店に連れていかれた。女は車輪や鎖の絵が描いてあるスカーフを頭に巻いたままだった。コーヒーを持ってきた店員や、他の客が不快そうにじろじろと俺の方を見ていた。居心地悪くしていると、やがて女が頭を下げた。
「申し訳ございません」
 少し鼻にかかった声でそのままうつむき、ささやいた。
「息子がとんだ御迷惑をおかけしまして…」
 やっと分った。あのガキの親だ。頭こそ下げてはいるが、スカーフ越しに誠意は見られなかった。鼻にかかった声だっていかにも「泣きながら」風で、けして泣いてはいなかった。
「警察には…」
「…ああ」
 俺は血で固まった唇を指先でいじりながら彼女を見つめた。上目遣いにこちらをちらっと見ている。
「言っていない」
 彼女はそれを聞くや否やモノグラム柄のハンドバッグから袋を取り出し、テーブルに音も立てずに滑らせた。封筒には都市銀行の名前が印刷されていた。
「これでどうか…」
 頭に来た。ガキは謝りにも来ない(どうせ俺を探すために近くまで来ているはずだ!)。そして金で解決させようとするのか。胸クソ悪い! お前らのような親が奴等みたいなガキを量産し、増長させるのだ。俺はその封筒を顔に叩き付けて去りたかった。一刻も早く、ここから出たかった。
 だが俺は何もしなかった。手に取った封筒の隙間から万札の束を確認し、用心深く懐にしまったのだ。
「俺は何も見ていないし、何も知らない」
 彼女は顔をはっと上げ、またすぐに頭を下げた。彼女からは「達成感」が見て取れた。
「すみませんが、よろしくお願いします」
 彼女は席を立ち、伝票を手に持ってそそくさと店を後にした。女の目の前のコーヒーは結局一度もその口に運ばれることはなかった。
 俺は頭に来ていた。女にではない。それは自分に対しての怒りだった。目の前の冷め切ったコーヒーを一気に飲み干した。わざと大きな音を立て、乱暴に食器を置いた。口がひりひりとした。俺を怪訝そうに見ている店員を睨み、そいつが目を逸らしている間に店を出た。外へ出ても俺は人の視線が気になって仕方なかった。俺はわざと反対側の東口の公園に向かった。
 公衆便所の個室に入った。懐から慎重に封筒を出し、金を数えてみた。五十万円あった。納得のいく方法ではないが、金は金だ。「示談」と考えれば合法的な金だ。俺に今一番必要なものがここにある。逆転を決めるのには十分な金だ。

 まずはどうしよう? ケチることはない。あのビジネスホテルにはコインランドリーもあったはずだ。とにかく熱い風呂に漬かりたい。それからだってこの金の活用法をゆっくりと考えたっていいはずだ。
 俺ははやる心を抑えてゆっくりと、ビルの谷間へ向かった。
(了)
 

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