短 編 小 説 |
「山田博士と玉手箱」 |
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雀原 聡 | |
ガタッ…ガタゴト……。 「このガラクタ置き場のどこが戦利品展示室なんだかなぁ…。大体、自分だってどこになにがあるのかわかってないくせに、面倒なことは全部僕にやらせるんだから困ったモンだよなぁ……」 「ん…。なにか言ったかな、川瀬クン?」 「えっ、あっ、なにも言ってませんよ。博士の空耳じゃないですか?」 「フンッ。言っておれ。そんなことより、例の物を早く探さんかっ!」 「わかってますよ。さっきから探してるじゃないですか、このガラクタの山の中を二人で……って、博士っ! なに勝手に休んでんですかっ!」 「なにを言う。年寄りは労わる気持ちはないのか?」 「そこらにいる普通のお年寄りなら、イヤと言うほど労わってあげますけど、博士は普通の年寄りじゃないでしょうが」 「なにを言うか、ワシほど真っ当な人間はおらんだろうが」 「博士が真っ当なのは自分の気持ちに対してだけでしょうが……あっ、博士、コレじゃないですか、探してた箱って」 「どれどれ? なにを言ってるのかね、川瀬クン。それはバイキングのビッケ翁からもらったダミーの宝箱じゃ」 「バイキングのビッケ…。ほんとかなぁ。じゃあ博士、この箱はどうです?」 「それは貯金箱じゃ…」 「貯金箱って…」 「なにを呆けておるんじゃ? その貯金箱はカネゴンという怪獣が人間のときに使っていたという貴重なものだぞ」 「今度はカネゴンですか…」 「あっ、その顔は信じとらんな」 「あたりまえですよ。カネゴンって『ウルトラQ』っていうTV番組のキャラクターじゃないですか」 「なにを言ってるんじゃ。カネゴンは実在しておったんじゃ。その証拠がその貯金箱じゃ」 「はいはい…。博士、この箱はどうですか?」 「それも違うのぉ。それはドクロベエから奪い取った『ドクロストーン』が入っておる箱じゃ」 「『ドクロストーン』って、TVアニメの話じゃないですかっ! いい加減にしてくださいよ、博士」 「いったい何年ワシの助手をしておるのじゃ、川瀬クン」 「そうですね、そろそろお暇をもらおうかと思ってるくらい長いですね」 「ヒマならいくらでもあるじゃろうが。ワシが研究してる間とか…」 「そのヒマじゃないです! それより、この箱はどうですか?」 「それか? ふむ…ちょっと開けてみてくれんか?」 「はい……うわっ!」 「はっはっはっ」 「笑い事じゃないですよ。なんですかコレは!」 「それはヨーロッパのピクシーからもらったビックリ箱じゃよ」 「ピクシーって、あのイタズラ好きの妖精の?」 「そうじゃよ。間違ってはおらんぞ」 「………。ふぅ。もう好きにしてください。僕は少し休ませてもらいますから。よっこらしょっと」 「ん? 川瀬クン、なにに座っておるんじゃ」 「は? 足元にあった手頃な大きさの箱を椅子代わりにしてるだけですけど?」 「それじゃよ、探していた箱は」 「はぁ? この箱ならずっとココにあったじゃないですか。なんで言ってくれないんですか?」 「そんなことを言われても、今気がついたんじゃから仕方がないじゃろうが」 「わかりましたよ。もういいですよ。で、この箱はいったいなんですか?」 「なにをしとるんじゃっ! こんなところでそれを開けるんじゃない」 「どうしてです?」 「それはかの有名な浦島太郎から譲り受けた『玉手箱』なんじゃ」 「はぁ? 今度は『玉手箱』ですか? もういい加減にしてくださいよ、博士」 「なにを言うか! その箱を開けた途端に老化ガスが出てくるんじゃぞ! 川瀬クンはまだ若いからいいが、ワシはどうなると思ってるんじゃ」 「永眠してくれると助かりますけど、博士ならなにがあっても平気でピンピンしてるでしょ?」 「人を化け物か妖怪のように言うもんじゃない。ワシはいたって普通の人間じゃ」 「マッドサイエンティストっていうだけで、充分異常ですけどね」 「好きに言っとれ。とにかくその箱は開けてはいかんのじゃ」 「いかんのじゃって、これが本物の『玉手箱』だっていうんなら、浦島太郎が一度開けてるから、博士の言う老化ガスはなくなってるはずでしょ?」 「あっ」 「ということは、この箱は『玉手箱』ではなくて『ただの空き箱』ってことですよね」 「う〜む。……そういうことになるかのぉ」 「つまり、僕は無駄な仕事をさせられたってことですよね、博士」 「よくそれだけポンポンと文句が言えるもんじゃのぉ。しかし、まあ、ひらたく言えば『その通り』じゃな」 「はぁ……。じゃあ博士、ココの片付けをお願いしますね」 「な、なにを言うんじゃ。そういうことは助手の務めじゃろうが」 「僕はもう体力も気力もなくなったんで、今日は休みますから!」 「相変わらず、真面目一辺倒なんじゃから…。折角ワシが生活に潤いと笑いを取り入れようとしておるのに、つれないのぉ」 | |
おしまい |
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