10. 勝負

「待て」
そこには武装した青年がいた
「今からお前をぶっとばしてやる」とでも云いたげな
闘志むき出しで突っ立っている
仕方なしに僕は立ち留まった
「俺と勝負しろ!!」
青年は息を荒めて云った
「決闘か?」
「そうだ」
「何故…」
「それがロマンだからだ」
僕は少し共感もしたが
「悪いのだが、僕は今あるゲームをしているのだ…
あの城から女の子を連れ戻さなくてはならない…
見のがしてくれ」
「知っているよ」
「ならば話は早い、通してくれ…
後でならいつでも勝負してやれるから…」
「随分な態度じゃあないのか」
「頼む」
「駄目だ!」
「何故?」
「俺は人のことなど関係ない! 自分のロマンを追求するだけだ」
なるほど、格好いいとも云えなくないが、幼稚な考えだ
「君に説教したい訳じゃあないんだが、
僕の経験からいってそんなことを考えていると
ロクな目に合わない…
やめた方がいい」
「大人ぶっているんじゃねえよ」
「大人ぶって云うのではない」
「いいや、本当は俺のことムカムカしてしょうがないんだろう」
「…」
「そらみろ、それとも何だ? 怖いか」
「怖いよ」
「何っ!!」
「怖い」
「嘘をつけ嘘を」
「いや、目の前で武装をした奴が因縁をつけてくれば、
誰だって怖いにきまっているじゃあないか」
「なら、武器は捨てる」
青年は武器を捨てた
「これでどうだ」
「それでも怖い」
「何故?」
「僕は喧嘩をしたくない」
「おまえは善人の振りをしている」
「そうでなければできないゲームだからだ」
「何故こだわる?」
「何に…」
「善人の振りをするということにだ」
「こだわっている訳ではない」
「嘘を云うな…
おまえ、本当は虫を殺してさっさとゲームを終わらせたい、
俺をぶっとばしてさっさと先へと進みたい…
だが、決まりを守るために仕方がないから善人の振りをする、
そうだろう?」
「…」
「だったら俺の方が自分に正直なだけ、よほど立派だ」
「この際、君が立派だとかそういうことは抜きにしよう…
頼む、通してくれ」
「駄目だ!」
「どうしても決闘しなくては駄目か?」
「おまえはあの子を愛していないからだ」
「えっ」
「勝手に自分を好いている、自分は楽しいから彼女と付き合う…
それだけなんだろう」
たしかに
最終列車の去ったプラットホームで出会い、車に乗れと云われて
今日一日、いっしょに過ごしたというだけに過ぎない
しかし、あの子は優しい
あの子は可愛い
どうだろう
いっそう、今の自分の気持を彼女中心にして
――僕は彼女を愛しています――
ということにしてしまうか
仮にも
僕は役者
人ひとりに感情移入し、その場で愛するなんて
たやすくできてしまう
一時、思うだけなら簡単だ
いっそうのこと“彼女を愛している”と
云ってしまおうか…

否、
失礼だ
あまりにも失礼過ぎる
彼女に対して失礼だ
…仕方がない
僕は棒切れを拾い上げ、叫んだ
「よし、てめえ上等だ、勝負してやる!」
だが、そこには誰もいなかった
僕は静かに目を閉じた


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(C)1999 篁 龍骨