連 続 小 説 |
「無題(仮)」 第1話 |
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杉浦善行 | |
20世紀末の日本で、それは起こっていた。 「ちくしょうっ! これで3件目か」 「そう文句を言うもんじゃないぞ」 「俺はみんなの気持ちを代表して言ってんですよ、佐伯さん」 佐伯はこの日2箱目の煙草を手に持ち、しばらく迷ってから火をつけた。『やっぱり禁煙するかな…』 と思い、佐伯は火をつけたばかりの煙草を灰皿で揉み消した。 「でもな仲根、ここで俺たちが文句を言ったってなんの解決にもならないんだぞ」 「俺だってわかってますよ、そんなこと。でも、この不可思議な状況は文句の一つも言ったって罰は当たらないでしょ」 仲根はドンッと机を叩いた。 はなしは一ヶ月前に遡る。その日、佐伯と仲根は摩訶不思議な事件に遭遇した。その事件とは、 マンションの部屋で人が殺されているという通報を受けて(そう、佐伯と仲根は警官なのだ)現場に行くが、 その部屋のドアは鍵がかかっていて入れないのだ。その上、通報者もいない。 やむなく管理人立会いで鍵を開けてもらいなかに入ると確かに死体があった。死因は絞殺で、 凶器は現場にあった荷造り用のロープだろうと思われる。ベランダに出る窓には鍵がかかっており、 玄関にも鍵がかかっていたということで重要参考人としてこの部屋の住人が浮かんだが、 ちょうどこの日の朝から大阪に出張に行っていた。また、被害者とのつながりも認められなかった。 被害者は畠山という四十三歳の金融業をしていて、かなりの悪評を得ている男だった。 それだけに佐伯たちはすぐに犯人を捕まえられると思っていたのだが、 その事件から一週間後にまた同じような事件が起きた。 今度の事件は石井というサラリーマンからの通報で始まった。 仕事を終えて帰宅すると部屋のなかに見知らぬ女性が死んでいるという。状況は前の事件とまったく同じであった。 ドアも窓も鍵がかかっていて、合鍵は作った覚えがなく、死因は刺殺で凶器はキッチンにあった包丁だった。 被害者は野村という二十六歳のOLで、他人に恨まれるような性格ではなかったという。二つの事件には共通点が多いため、 連続殺人事件として捜査本部が管轄でもある佐伯たちの警察署におかれることになった。 そして第二の事件から十日後に今回の事件が起きた。 今回はいままでの事件と違う点があった。死因は撲殺で、凶器はゴルフクラブだった。 ただ、犯行が行われた部屋が仲根の隣の部屋だった。事件が起きた時、仲根は着替えのために部屋に帰っていて、 被害者の悲鳴を聞いてすぐに部屋を飛び出した。しかし、ドアの鍵がかかっていて部屋のなかに入れなかった。 そこで仲根は佐伯に電話をしてから管理人室へと走った。そして管理人と二人で佐伯の到着を待ってから問題の部屋の鍵をあけた。 なかに入るとこの部屋の住人である島田が頭から血を流して倒れていた。 「おい仲根。この被害者はこの部屋の住人に間違いないか?」 「はい。何度か挨拶も交わしてますから、間違いなくこの部屋の住人の島田です」 「そうか。一応管理人にも確認をしてもらおう。その間に署に電話して鑑識を呼んでおいてくれ」 佐伯はそう言うと部屋のなかを調べ始めた。仲根は電話をしたあと佐伯の指示のもと部屋のなかを調べ始めた。 しばらくしてから鑑識連中がやってきて現場検証が始まったが、今までの2回同様なんの手がかりもみつからなかった。 凶器のゴルフクラブは島田のものだし、窓も玄関も鍵がきっちりと閉められていた。 | |
つづく |
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